おつかれさま、かぷちーとです。
今回は映画『アイの歌声を聴かせて』のレビューと解説を書きます。
私はミュージカルじゃないけど、音楽がテーマの映画を作るのは、他の作品に比べて難しいと思っています。
音楽がテーマの映画は、音楽を主張しすぎるとMV(ミュージック・ビデオ)のようになってしまいます。中身が空っぽの映画です。
逆に音楽を出さないと、映画のテーマからずれてしまうことがあります。
そうなると、音楽がテーマである必要がないです。
そして、映画の没入感も重要です。
例えば、現実でにいきなり歌いだす人が目の前にいたらドン引きします。
でも、映画やアニメ、ミュージカルで物語の整合性が取れていれば、ドン引きすることはありません。
私は、キャラクターの必要性とか、そもそも物語に音楽が必要なのか、その理由がえがかれていないと、没入感を失い途端にさめてしまいます。
なので、要求することが増えてしまい、基本的に好きになれないジャンルです。
でも、『アイの歌声を聴かせて』は非常によくできた映画です。
私はこの映画が大好きです。
この記事は映画『アイの歌声を聴かせて』を視聴済みの方に向けたレビューです。未視聴の方はご覧にならないようお願いします。
製作キャストとキャラクター解説
監督 吉浦康裕
代表作『イヴの時間』『さかさまのパテマ』
”AI、SF、ロボット”系のイメージを持つ監督です。
今回の『アイの歌声を聴かせて』は、青春と歌とSFを見事に落とし込んだ、大衆映画です。
映像は美しく、群像劇もあり、キャラクターの青春を通して、主人公のサトミの成長につながります。
結末に必要な要素をうまくちりばめている完成度の高い映画でした。
キャラクターもよく動いて、CGも違和感がなかったです。背景の色使いが好みです。
声優 福原遥 ”サトミ”
正義感が強く、仕事の忙しい母親に変わって家事もこなします。
学校生活では幼馴染のトウマを助ける為にしたことが”告げ口姫”と呼ばれ、一部の生徒に嫌われてしまいます。
頑張り屋がゆえに本心を見せない性格です。
なので、友人は少なく”ひとりぼっち”でいいと思っていました。
でも、シオンのお陰で”本心を見せられる友達”を作ることができます。
土屋太鳳 ”シオン”
美津子が開発したAIロボット。
サトミのクラスに転校してきた初日に、「サトミ!いま、しあわせ?」と突然歌いだします。
あっけらかんとした表情と天神爛漫な性格です。
クラスにすぐ馴染みますが、奇想天外な行動をするたびにサトミたちを困らせます。
サトミとトウマと美津子3人の過去と、シオンが繋がる流れは素晴らしかったです。
工藤阿須加 "トウマ"
サトミの幼馴染で電子工作部員。
研究者顔負けの知識と腕前を持っており、シオン(AI)の行動原理をよく理解している。
ハッキングをかけたり”普通出来ないことを普通にやってしまう”。
クラスで孤立しているサトミをいつも気にかけています。
でも、コミュニケーションが苦手で、密かに想いを寄せているため、小学生以来話せていない。
「見守っていたんだよ、ずっと」の下手くそなところがすごくよかったです。青春って感じです。
興津和幸 "ゴッちゃん"
サトミのクラスメイトでイケメン。
気さくで気配り上手、さらに機転が利くため女子に人気があります。男友達とも良好な関係を築いています。
チャラそうに見えるけど繊細で、コンプレックスを抱いています。
自身を「勉強と運動なんでも80点、2位、3位で1位にはなれない」と称し、機械や柔道に夢中で嫌いになることなど考えもしていない、トウマとサンダーを尊敬している。
アヤの彼氏で冷戦中だったがシオンのお陰で仲を取りもどします。
小松未可子 "アヤ"
サトミのクラスメイトでイケてる側の女子高生。
わりと意地悪な発言が多くキツい性格、最初はサトミとシオンを目の敵にしていた。
ゴッちゃんが大好きだけど、ゴッちゃんの事を”ブランド”発言してしまったことから、冷戦になり、素直に謝れずにいたところをシオンによって救われる。
それからはだいぶ明るい表情が増え、サトミとも仲が深まる。
気が強くはっきり物事を言ってしまうが、とても友達思いの優しい性格。
日野聡 "サンダー"
サトミのクラスメイトで柔道部。シオンのことが好き。
毎日”三太夫”という柔道ロボットと稽古に励んでいるがよく壊す。
”三太夫”が壊れると決まってトウマに修理を頼みに行く。「トウマ先生!」
柔道に対する熱意は凄まじいが本番になると緊張してしまい勝ったことがない。
柔道のプログラムを組み込んだシオンを相手に、歌とダンスとリズムを身につけ、見事初勝利を勝ち取ることができた。
シオンのためならなんのその、熱い男サンダー。
大原さやか "天野美津子"
サトミの母であり、シオンを生み出した”星間エレクトロニクス”のAIチームリーダー。
優秀で明るい性格のため部下からの信頼も厚い人物。
西城をはじめとする上層部の一部に妬まれているため、シオンの研究が問題となり一気に足をすくわれてしまいます。
仕事に情熱を持ちすぎたことが原因で、サトミが幼い頃離婚している描写がある。
辛いこともサトミへの愛情と共に乗り越えていきます。
でも、自分の研究が全て無駄だったと思い自暴自棄に陥ってしまいます。
この一連のシーンは今までみてきたシオン達の幸せとは対極です。
とても辛く重く痛々しい、物語の”序破急の破”としての役割が強調されていて素晴らしかった。
津田健次郎 "西島"
”星間エレクトロニクス”の支社長。
部下の美津子に妬みをもっているので、彼女の失脚をまち望んでいます。
声がツダケンさんで良かったです、なんか”ねちっこい上司”って感じでハマってました。
堀内賢雄 "星間会長"
星間エレクトロニクスの会長。
懐の深い人で、美津子の独断を咎めず、次はちゃんと報告してから研究するよう伝えた。
仕事は仕事として成果をきちんと評価してくれる優秀な人。
美津子がクビになってもイイって顔で出社してきたのも、その判断材料だったのかも。
『アイの歌声を聴かせて』の感想と考察
正直そこまで期待していない映画でしたが、素晴らしい作品でした。
子供から大人まで楽しめる”王道な大衆映画”です。
”王道な大衆映画”というと「教科書通りの作りだ」と揶揄されます。
でも、”王道な大衆映画”をつくるのはとても難しいです。
王道な大衆映画
同じアニメ映画で”王道な大衆映画”なら『千と千尋の神隠し』が非常に有名です。
『アイの歌声を聴かせて』と同じく、主人公の成長物語でありながら、主人公の成長と共に、脇を固めるキャラクターたちも成長します。
物語の核心は千尋とハクの過去です。『アイの歌声を聴かせて』もサトミとトウマ、シオンと美津子の過去です。
この物語の核心「どうしてそうなったのか?」という理由を、どちらの作品も見事に表現しています。
では、『アイの歌声を聴かせて』はパクりなのでしょうか?
私は、『千と千尋の神隠し』のような作品をつくれ!パクれ!と言われても非常に難しいと思います。パクりでもないです。
さらに『アイの歌声を聴かせて』では音楽が大きなキーワードになっています。
冒頭でも書きましたが、”歌”というのは映画の没入感を削ぐ、とても強い要素です。
王道映画のテンプレにそいながら、”歌”や音楽をテーマに取り入れ、オリジナルとする。(いずれ映画の王道やテンプレ、パクりについて記事を書きたいと思います。)
”歌”が何故必要だったのか、それはサトミとトウマ、シオンと美津子の過去にあります。
なぜ歌が必要なのか
物語の終盤、サトミたちは自分たちの”幸せ”をシオンのお陰で思い出します。歌と踊りと、天真爛漫なシオンとの学生生活は、青春そのもの華やかなものです。
でも、それとは対照的にサトミの母親である美津子は、研究の失敗から失脚され”自暴自棄”に落とされます。
でも、シオンに救われたサトミたちと、シオンによって美津子は救われることになります。
『アイの歌声を聴かせて』はサトミとシオン、トウマと美津子の物語です。
なぜシオンは”歌でサトミ(ヒト)を幸せにできる”と思っているのか、”サトミを幸せにしたい”と思っているのか。
3人の記憶を回想するシーンで、シオンの記録が見せたサトミの幼少期の映像だけで、”物語の理由”を説明してくれます。
あれだけで十分です。非常に素晴らしい流れでした。
物語の核心よりも群像劇を優先した
映画のテーマを説明するのは難しいです。
細々と説明されれば「押しつけがましい」し、説明不足だと「だから、どういうことだってばよ」になってしまいます。
『アイの歌声を聴かせて』は物語の核心は簡単に映像で理解させてくれます。
簡単にしたからこそ、サトミが”幸せ”になるために大事な要素、”友達”に対してスポットを当てられます。
主人公以外のキャラクターが”登場する意味”を、群像劇によって魅力的な”友達”にしあげています。
最後に
ストーリーも伏線の回収も無駄な描写がなく、スッキリしているので観やすかったです。
上映時間のわりにキャラクターが多く登場しますが、どのキャラクターも必要な存在だったし、愛着がわく演出が盛り込まれていて、非常に良かったです。
『アイの歌声を聴かせて』のような王道映画はテンプレが存在します。
でも、そのテンプレ通りにキャラクターの配置や、設定や、”映画のテーマ”をオリジナルに落とし込むのは難しいです。
素晴らしい映画です。おすすめです。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
堅苦しい文章なのは許してください。
では、またの機会に。