おつかれさま、かぷちーとです。
今回は映画『ノープ』のレビューと解説を書きます。
正体不明の現象をみたとき、私は目をそらさない自信があります。
『ノープ』の世界にもしもいたなら、簡単に吸い込まれてしまいます。
ジョーダン・ピエールの作品は大好きで毎回楽しみにしています。今回の『ノープ』はその期待を裏切らない”素晴らしい作品”でした。
劇中の「ゴーディ 家に帰る」と、リッキー(スティーヴン・ユァン)の関係からこの映画の”テーマ”がみえてきます。
素晴らしい音響と、空の映像は劇場でみる価値が十分あります。
この記事は映画『ノープ NOPE』を視聴済みの方に向けたレビューです。未視聴の方はご覧にならないようお願いします。
製作キャストとキャラクター解説
監督 ジョーダン・ピエール
代表作『ゲット・アウト』『アス』
コメディアンであり俳優でもあるジョーダン・ピエールが、監督と脚本を担当したのは今回で3回目です。
彼の作品は”テーマ”がいくつも交わりながら、1つにの”本筋”に繋がります。
『ノープ』でも”差別意識”や”消費される見世物”、”兄妹の絆”、”他人にみてもらいたい自己肯定”など非常に複雑です。
でも、これらの”映画のテーマ”をみごとに集約したのが『ノープ』でした。
謎の生命体Gジャンは空に存在するため、大半が空を見上げる描写が多いです。でも劇中一度も飽きることも、おかしいと思う事もなかったです。
その恐ろしさを素晴らしい音響効果で「ゾゾゾォ」とさせてくれます。
俳優 ダニエル・カルーヤ
”最悪の奇跡”によって父親を失った、OJ
OJは父親を失ってからも、彼の運営していたハリウッド牧場を切り売りしながら生活しています。
”最悪の奇跡”の日から牧場に”正体不明の存在”がいることに気づいてからは、それにとり憑かれたかのように、以前の元気はなくなってしまいます。
OJも妹のエメラルドも夢を叶えることができない、いわゆる”見てもらえない人”です。
寡黙な性格ですが、仕草や間の撮り方が素晴らしかったので、興味深い主人公であることが分かります。
セリフがなくても気持ちが伝わる、素敵な俳優です。
キキ・パーマー
副業か本業かうまくいかないながらも楽観的な妹、エメラルド・ヘイウッド
父親を失って”兄妹の絆”も失った2人は、”Gジャン”を利用して有名になろうとします。
その思惑はおそらく成功を収める形で物語は終わります。
でも、彼女の”認めてもらいたい”という”自己肯定”よりも、”兄妹の絆”がそれに勝ったような演出がよかったです。
トラブルメイカーらしく、ちょっとウザイのも持ち味。
スティーヴン・ユァン
テーマパークのオーナー、『ゴーディー 家に帰る』奇跡の生き残り、リッキー・ジュープ・パーク
リッキーは『ノープ』の”テーマ”である”見世物”であり”見捨てられた”存在です。
『ノープ』は”見る”ことと”見られる”ことを、わかりやすく”消耗品てき扱いである俳優”で、うまく例えています。
リッキーは子役(その時が旬)であり、”奇跡の生き残り”ですが、そのあとはハリウッドの仕事はなくなり、主役になれず”最近見ない人”(時の人)となってしまいます。
そこでテーマパーク『ジュピターズ・クレイム』を開設して自分が主役になろうとします。
でも、”Gジャン”はリッキーの思惑通りには動きません。
ブランドン・ペレア
悪態きこえてますよ、エンジェル・トレス
監視カメラの設営を依頼されたエンジェルは、恋人にフラれたことをバネにヘイウッド兄妹に協力することなります。
ここからのサスペンス要素とホラー演出は絶品です。特に音響効果は、近年では『デューン』いらい久しぶりの体験です。
脇役ですが、魅力的なキャラクターです。後半ひやひやしましたが、ちゃんとOJの助言通り行動したおかげで生き残ることができます。
マイケル・ウィンコット
スポットがよんでいる!アントラーズ・ホルスト
序盤、OJが馬の調教師として呼ばれ、撮影現場にいた有名な撮影監督です。
エンジェルが目撃した薬を飲むシーンから、余命が短いのかもしれません。
撮影現場ではひどく”つまらなさそう”に撮影しています。
でも、UFOの撮影時には少年のように目を輝かせていたのが印象的ですね。
彼はもう”とることも””みることも”やりつくしてしまったのだと思います。
ホルストでさえ”みたことがない”ハリウッド・ホース牧場の”未知なる存在”を、まるで自分の”スポットライト”のように突撃していきます。
『ノープ』の感想と解説
衝撃的な映像で始まる『ノープ』は幾度となく”最悪の奇跡”がおきます。
ゴーディーズ・ホームの惨劇の日、青色の靴の片方は美しいほど垂直に立っていました。血だらけのチンパンジーが近づいてもびくともしません。回想でリッキーだけが生き残ったことは次の項目で書きます。
”最悪の奇跡”は牧場でもおきます。OJと父親は他愛もない会話をしていたが、叫び声のような奇妙な音とともに、空から鍵やコインが大量に降ってきます。
馬に乗っていた父親は空から降ってきたコインで命を失います。でも、OJと馬は生き残ります。
”最悪の奇跡”は事故や事件で自分以外が死んでしまったり、ふと頭をよぎった”最悪”が”奇跡的に”おこってしまうことです。
リッキーとGジャンとゴーディーの関係
リッキーは『ノープ』においてもっとも”映画のテーマ”にあったキャラクターです。
彼はアジア系の子役としてデビューしています。最初こそはもてはやされていますが、興味を失った人々は次第に彼の存在を”見なく”なります。
いつまでも主役になれないリッキーは、当時の人気番組ゴーディー・ホームに出演していますが、観客に笑われる”見世物”です。
チンパンジーのゴーディーも、面白おかしい行動をする”見世物”でした。
物語中盤にゴーディーが射殺される瞬間、リッキーとグーパンチをする印象的なシーンがあります。
「よー、大丈夫か?」とも「いえー、俺らのためにウザイ奴らやっつけたぜ!」
そんな会話をしているようなシーンです。
まるでリッキーとゴーディーが”自分達を辱め見世物にした人間たち”に、逆襲したかのようです。
でも、リッキーはこの事件のあとも誰かに”注目”してもらえず、”自己肯定感の低い大人”へと成長します。
そのためいつまでも、昔の功績を大切に保管し「いつか主役に」「僕が注目される場をつくる」とパークを開設します。
そんなリッキーのもとにGジャンは現れます。
リッキーはGジャンを”見世物”(利用)にしてパークを盛り上げ、スポットライトの当たる”主役”を目指します。
でも、その夢は叶いません。
リッキーは最後まで気づきませんでした。
子供のころ”辱め、見世物にした人たち”と同じことをしていることに。
見世物たちの逆襲
Gジャンは誰もが”注目”する存在です。そして、”自分をみる生き物”を捕食します。まるで、注目されている”人気者”のようです。
OJとエメラルドたちは”人気者”になって富と栄光をつかみたがっています。
後半はまるでヒーロー映画をみているかのような、「ホラー映画だったよね?」と言わせるほどの”逆襲劇”がはじまります。ジョーダン・ピエールらしい流れでしたね。
脱線してしまいました。
OJもエメラルドも”注目されない見限られた”人たちでした。
撮影現場ではいい”笑いもの”です。
主人公たちはリッキーと同じ思考で動いているわけですが、彼と唯一違ったことは、”兄妹の絆”です。
彼らは”共通の目的”をつくることができたお陰で、父親の死後に失っていた”兄妹の絆”を取り戻します。
兄妹の絆から考える自己肯定感
”兄妹の絆”は兄が妹を、妹が兄を認め、”お互いを肯定してくれる存在”です。
撮影現場では妹に悪態をつくけど、妹が来てくれることを願っていました。
兄を軽蔑する発言をしますが、頼れる兄を待っています。
互いに”必要だ”と感じさせてくれる存在がGジャンを倒せた要因に思えます。
私たちは日ごろ”誰かと比べるように”できています。あるいは”比べられるように”。
でも、ほんらい自分を認めてくれる存在は多くなくていいはずです。
親、兄妹、友達、パートナーでも、誰か1人でも”存在を肯定”してくれればそれでいいはずです。
確かに”自分が自分を肯定してあげる”ことが一番な気がします。
でも、それって”怖かった”り”不安”だったり、とても難しいものですよね。
最後に
リッキーには理解者である奥さん(?)がいました。でも、彼はそれ以上を求めてしまいます。
人間は欲深いものです。「もっと、もっと」と次から次に求めてしまいます。
チンパンジーのゴーディーがアジア人のリッキーだけを殺さなかったのを、”アジア差別”(イエローモンキー)の例えかも、と思っていましたが、文章と自分の中の考えを整理していくと、そんなことはなかったなと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
堅苦しい文章なのは許してください。
では、またの機会に。